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 パァン…ドンッドンッ


 乾いた花火の音が、快晴の空に響く。日差しが少し暑く感じるが、空気は爽やかで秋らしい日だ。

 はるか、みちる、せつなは、ほたるの通う区立十番小学校に来ていた。今日は運動会だ。


「あっ、はるかさーん、みちるさーん、せつなさーん」

 大声で呼ばれて見ると、そこにはうさぎたち家族と、衛がシートを広げて座っていた。ちびうさの応援で来ているようだ。

 はるかは軽く会釈し、隣にお邪魔するよ、と自分たちの持ってきたシートを広げる。

 荷物を整えながら、みちるがこそっと衛に話しかけた。

「まるで家族の一員みたいね」

 その言葉に衛は耳まで赤くなる。

「……い、いやぁ、これはちょっと……!」

 慌てる衛にくすっと笑いかけ、みちるは何事もなかったかのようにシートに小さな椅子を置いて腰掛けた。

「どうしたの?まもちゃん」

 聞こえていなかったうさぎはきょとんとする。

 そんな微笑ましい光景を横目に、運動会はまもなく始まろうとしていた。


 ちびうさやほたるたち低学年は、午前中のプログラムが多く、早々に徒競走を終えて席に戻っていた。

「えーっと、次は……障害物競走?」

 みちるがプログラムを読み上げると同時に、次の競技を知らせるアナウンスが流れた。

ほたるとちびうさがスタートラインに向かう。

「位置について……用意……」

 パァン、と軽い号砲が鳴り、スタートした。コースには平均台、網くぐり、ハードルなどが並んでいる。

「結構本格的なんだな」

 必死な様子で取り組む子どもたちの姿を、はるかは感心して眺めていた。

 ちびうさは、先頭に近い位置で進む。ほたるは少し出遅れたが、それでも各障害物を上手にこなしてみせる。

 障害物の最後には、たくさんのカードが並べられていた。子どもたちがカードを手に取り、周りをキョロキョロの見回す。

「あれは……」

「借り物競走ね」

 ほたるとちびうさもカードを取った。そしてそれを見るやいなや、真っ先にこちらに向かってくる。


「まもちゃん!!! 来て!!!」

「はるかパパ!!! 来て!!!」

 シートに辿り着くと、ほぼ同時にそう叫んだ。

 カードを見ると、ほたるは「背の高い男の人」、ちびうさは「白のアクセサリー」…


 「なるほど」はるかはにっこりと笑い立ち上がる。

 そしてほたるを抱きかかえ、颯爽と走り出した。


「えぇーっ、抱っこするのは反則じゃ……っていうかはるかさん、女……

 あ、それよりちびうさ! まもちゃんアクセサリーなんかつけてないじゃない! どうするの??」

はるかの姿に見とれていたうさぎが、思い出したようにちびうさと衛の方を向く。

「まもちゃんお願い! タキシード仮面がつけてるアレ、貸してよー」

ちびうさは手を合わせてお願いしている。

「ええっ……今から……?? それにあれはアクセサリーなのか……?」

「いいから!! お願いーーー!!」


 一方、はるかに抱えられたほたるは、あっという間にゴールまで運ばれていた。借り物を探して右往左往する子どもたちを抜き去り、一着でゴールする。

 その走りの美しさと速さに、会場中から感嘆の声があがる。

「やったぁ! さすがはるかパパ!!」

 ほたるがはるかの首にしがみついて喜ぶ。ただでさえ絵になる二人の元にみちるもやってきたものだから、ゴール付近はもはや順位を気にするどころではなくなってしまった。見学の父兄や先生達も、三人に注目している。

「速かったわね。さすが元陸上選手。」

「みちる。見ててくれたかい?」

「もちろんよ、はるか……」

 ほたるを真ん中にしたまま、みちるがタオルを手に取り、はるかの顔にうっすら滲んだ汗を拭う。

「とても素敵だったわ」

 グラウンドの真ん中で見つめ合う二人、そして真ん中で微笑むほたる。舞い散るバラの花びら……ではなく紙吹雪。

そして二人は手を取り合って……。


「……二人とも。そのくらいにしたらどうですか。主役はほたるですよ。」

 いつの間にかせつなが二人の背後にやってきていた。二人がうっとりと見つめ合う間に、児童たちが様々な借り物を持ってゴールしてきていた。そしてほぼビリの位置で、ちびうさが例の仮面を持って、なぜか衛も連れてゴールしようとしている。

「いいじゃないか、せっかく一位になれたんだし。な、ほたる。」

「うん、はるかパパ、すっごくカッコよかったよ!」

「それにさ、せつな。なんだかんだでちゃんと撮ってたんだろ?」

 はるかがせつなが手にしているカメラを指す。せつなは言葉に詰まり、はぁ、とため息をついた。

「……撮ってましたよ。誰かさんのせいで、ほたるが走る姿は撮れませんでしたが。」

「それは別の競技で撮れたしさ。あとはほら、あっちのおちびちゃんも撮らないと。」

 はるかはゴールしてこちらに向かってきたちびうさを示した。すかさずせつなはそちらに向けてシャッターを切る。


「一緒に走ってきたの?」

ほたるは衛の手を引いてやってきたちびうさに尋ねた。

「うんっ! あたしもまもちゃんと走りたかったのー!」

 ちびうさがにこにこと答えた。そして今度はほたると手を繋ぎ、二人は楽しそうに席に戻っていった。


「それ、いつも持ってるの?」

 はるかは自分たちの席に戻りがてら、衛の仮面を指して聞いた。衛は朝と同様またうろたえて

「た……たまたまだ」

とつぶやき、そそくさとうさぎたちのいるシートに戻っていった。


 昼休みにはみちるやせつなが張り切って作ったお弁当を和やかに食べ、――うさぎやちびうさがおかずを取り合うというハプニングはあったが――午後は大玉転がしや玉入れなどの定番の競技をこなし、運動会は終了。一同は帰宅の途についた。


 ほたるははるかとみちると手を繋いで歩いている。

「楽しめたみたいだな」

「ふふふ。とても楽しかった!はるかパパもかっこよかったしね」

 ほたるははるかを見上げて、楽しそうに笑った。

「僕の足は衰えてなかったってことだ。また陸上をやってもいいかもしれないな」

「あら。いいじゃない。はるかが走るところ、私も見たいわ」

「私もー!」

 三人はまるで本当の親子のように、楽しげに話していた。

 せつなは後からそれを眺めながら、そっとカメラを取り出し、三人の後ろ姿を収めた。


 ――今日は、たくさんいい写真が撮れましたね。