021. 読書記録「禁忌の子」
2025.2.4
『禁忌の子』(山口未桜)の読書記録です。
SNSで良く流れてきて高評価なので読んでみました。
あらすじ。救急医の武田は、ある日自分と瓜二つの身元不明の水死体が勤務先の病院に運び込まれたことをきっかけに、同じ病院に勤める中学の同級生である城崎と共に、自分の出生を調べ始めた。すると、自分の亡くなった母親が妊娠時にとある産婦人科から転院していることが判明。現在は不妊治療を行っている転院元の医院へ赴き、院長の生島という女性と面会をすることになった。ところが、約束の時間直前に生島は自殺してしまう。自殺にしては不自然な点もあり、城崎と武田は院長の息子でありその医院の医者である蒼平の依頼で、それとなく関係者の動向を探ることに。
また、城崎は生島の遺体を見た時に、武田に生島の面影を感じていた。武田と瓜二つの人間が生まれるには一卵性双生児である必要があること、生島の医院がかつてから不妊治療研究に積極的だったことから、武田はなんらかの理由で生島の遺伝子を持つ卵子を母親が体外受精し生まれた子供ではないかと推測。DNA鑑定を行うことに。
一方で、当初身元不明だった男性の身元が「中川信也」と判明した。そこで、武田は中川の母親に事情を告げ会いに行くことに。母親から聞いたのは、城崎の想像通り、生島が研究の一環で生島自身と彼女の夫の受精卵を、不妊で悩む夫婦に提供していたことだった。当時はまだ血の繋がらない子供への情報開示は控えるべきという論調だったこともあり、中川も武田も自分の出生を母親に知らされず育った。しかし不運なことに、中川は小柄な母親から生まれるには大きく育ち難産に。その結果、次に不妊治療で妊娠した血の繋がらない弟を出産直前に子宮破裂で失うことになり、父親に「お前が生まれたせいだ」と忌み嫌われ暴力を振るわれながら育つこととなった。暴力と非行に染まった信也は、一度家を出たが父親の亡き後に生家に戻り、父親の部屋から自分の出生の鍵になる情報を見つける。どうやらそれを元に生島を尋ねていたようだった。
中川の母との会話を終えて帰宅すると、その内容を聞いた城崎は真相がわかったと言い、武田の家で自らの推理を披露する。武田の妊娠中の妻は実は同様に体外受精で生まれており、遺伝子上は武田の妹だった。中川は生島をたずねたあと、自分と同じように体外受精されている人間がいることを知り、武田の妻を尋ねて脅したのだ。防衛のために中川を突き飛ばし、その後海に落としたのは妻だった。他殺のようにも見えた生島はやはり自殺で、武田や城崎と会う予定時間の直前に武田の妻とも会っており、自分が提供した受精卵のせいで一人が虐待家庭に育った挙句、妹に殺されたこと、その妹は兄と知らずに結婚していたことを知り、自らの罪を償うために死を選んだのだった。
前評判に違わず面白い作品でした。作者がお医者さんということで本格医療ミステリになっていますが、とっつきづらい感じもなく楽しめます。
印象に残った点や考えさせられた点として、体外受精で生まれた「遺伝学上の兄妹」三人は、武田とその妻が育ての両親に愛され幸せに育ち、本当は兄妹であることを知らずに結婚に至ったのに対し、中川は「本当の子ではない」ことが理由で虐待を受け、全く違う人生・性格となる……元々は同じシャーレで培養されていた受精卵が、ひとつ間違えば自分がそちらの家庭にいたかもしれない、と考える武田の実感にそら恐ろしさを感じました。
また、子供を持つことにどこまで医療が介入すべきかも考えさせられます。これはこの本を読む前から感じていたことですが、身体上の理由で子供を持てない人が治療を受けてまで子供を授かるのが正しいのか、オブラートに包まずに言うと、「持てないということは持つべきでない」とは言えないのか? ということです。事実、中川の母親は、自分の遺伝子ではない子供を授かったことで、子供がお腹の中で想定以上に成長し難産になっています。他人の遺伝子だったから余計にそういう事態になったのかもしれませんが、治療が原因で「本当は子供を持つのに適していない体に無理やり持たせた」となっていないだろうかと感じてしまいました。
そして、治療をして子供を持てたとして、障害があっても育て上げることができるか? 治療時の年齢は子を育てるのに妥当なのか? 話の中で言及されたように、虐待のきっかけとなり得ないか? など、あらゆる視点でまだまだ考えるべきことが多い分野のように思います。
とはいえ、なんらかの理由で子供を諦めざるを得なかった人にとって、不妊治療が希望の光であることは理解します。自分の周りにも治療のおかげで子供を持てた人もいますし、一概に否定するものでもないと思います。また、妊娠出産に医療の助けがなければ安全に済まないことは自身の実感としてよく理解しているので、「自然妊娠には医療が介入しても良いが不妊治療では介入すべきでない」などと、単純に線引きできる問題でもないでしょう。
個人的に関心の高い分野なのもあって感想が長くなってしまいましたが、最終的に武田の妻は警察に出頭することもなく子供を無事に出産し、その子を大切に育てるということで話が終わっています。殺人を容認するので賛否両論ある結末だとは思いますが、後味はそこまで悪く感じませんでした。
本作品は鮎川哲也賞受賞作で、作者にとってのデビュー作とのことです。ストーリーはよく練られていて面白く感じたのですが、やたらと傍点が多かったり、神視点と主人公視点が混在していたり、同じ表現が多発するなど、デビュー作っぽい文章だなぁというところが気になってしまいました。詳しくないのですが、こういう受賞作は編集さんのチェックなどを入れずにほとんど書かれたそのままに出版するものなんですかね?
素人なんで人の文章を批評できるほどの立場ではないですが、素人のくせにそういうところを気にして読んでしまうので……でも、話を組み立てる力は間違いなくある方で、文章の書き方なぞ後からいくらでもよくなっていくと思うので、きっと今後また面白い作品を書いていくのだろうなぁ、と感じました。