immoral

訳ありな二人


 まだ朝の早い時間と言ってもいい時間だったが、はるかとみちるはベッドの中で睦みあっていた。


 たまたま二人のオフが重なり、そしてたまたま、せつなとほたるが用事のため早く家を出るという日。そういったタイミングはなかなかない。二人の気持ちは前日から、互いを求め愛し合う時間に向かっていた。


 一度起床してせつなやほたると共に朝食を摂り、笑顔で見送る。玄関のドアが閉まるか閉まらないかというその瞬間に、はるかの腕はみちるの腰にするりと回され、引き寄せられていた。


 言葉はなくとも、絡んだ視線は互いを求めていることを物語る。一瞬の目配せのあと、はるかはその場でみちるに深く口付けた。

 気持ちを昂めあう時間も必要ないほどに、最初から熱の篭ったキス。髪を掻き抱かれたかと思えば、みちるはぐいと壁に押し付けられ、はるかの手が腰のラインから上に辿るようにのぼっていく。すぐこの場ででも情事が始まってしまいそうな勢いに、みちるは思わずはるかの手首を掴んだ。

「……せっかくのおやすみだし、外に出てデートしてもいいのよ」

 上目遣いに見上げるみちるの視線に、はるかは「ご冗談を」と、ふっと笑みを浮かべた。

「君の目は、そう言ってないぜ」


 みちるの腰にはるかの手が纏うように絡んだまま、二人はみちるの寝室に上がり、すぐさまベッドで続きを再開した。言葉少なに唇を貪り、指を絡める。一度は着替えて整えたみちるの服は、いとも簡単にはるかの手によって脱がされた。しっとりとした素肌は上気し、はるかに触れられるのを待っている。

 さらけ出された首筋、ぴんと立つふたつの膨らみに、はるかは躊躇いなく柔らかな唇を押し付ける。吸い付くような刺激に、みちるの肌が粟立ち、身体を震わせた。

「ふっ……あっ、はるかっ……」

 期待感も相まって、二人の気持ちはあっという間に熱くなっていた。いつも通りの愛撫が、普段よりも刺激的に感じる。それはこんな朝早い時間から『いけないこと』をしているという軽い背徳感とか、せつなとほたるに表面上は笑顔を浮かべながら、心のなかでは早く二人でこの時間を過ごしたいと思っていたとか、そういう後ろめたさも後押ししているのかもしれない。

 はるかがみちるのふたつの膨らみを摘んだり吸ったり、順々に刺激していると、みちるははるかの首に腕を回し、囁いた。


「あっ……はるか、ぁ、早く……」

「焦るなよ。時間はたっぷりあるぜ」


 早々にはるかを求めたみちるの腕にも軽い口づけをして、はるかはみちるの腰を軽く持ち上げた。いつもより、ややペースは早いかもしれない。いつもであれば少しずつ昂めるよう愛撫を楽しむのに、今日のみちるは最初から鋭く反応し、はるかの興奮も加速した。みちるがはるかを煽った面もあるし、はるか自身も早くみちるが欲しかった。


 じゅくじゅくと熱く潤ったみちるの中心部に、はるかは迷いなく吸い付いた。これまでの愛撫と同様、やわやわと刺激するのではなく、最初からやや強めの刺激がみちるに送られる。みちるは思い切り声を上げ、シーツを握りしめた。

「ああっ……んぅ、はるか、ああっん!」

 吸って、転がすよう、そしてみちるから溢れでる液を全て絡め取るように、はるかは舌を動かした。みちるは腰を捩り、片手でシーツを握りしめ、もう片手の甲を口に当てる。

「誰もいないよ。我慢しないで」

「あ、でも……はぁっ、ああ、んっ、はぁ」

 はるかが刺激の隙間からみちるに声を掛けると、みちるはそれでもまだ口元から手を外さぬまま、荒く息をついた。朝起きて綺麗に整えたみちるの髪は、シーツの上に散らばり、美しく波を描いている。身体が火照っているせいかほんのりと赤みを帯び、はるかがつい先ほど散らした花びらのような印がいくつか散っていた。

 それらを視界に捉えてから、はるかはまたみちるの中心に顔を埋める。みちるが乱れながら一心に自分を求める姿を見ていると、いくらでも焦らすことができるとはるかは思っていた。けれど、一方では早く直接触れたい気持ちも高まってきていて、うずうずと身体の内側から自分を突いていたのだ。

「んっ……はるか、もう、だめ…………っ」

 はるかがみちるの中心部にある尖った芽を鋭く吸うと、みちるが小さく呻くように呟き、身体を強張らせた。

 みちるの喘ぎは収まり、部屋には荒い息遣いだけが響く。はるかはひくひくとうずく中心部を感じながら、依然そこに唇を当てたまま、みちるの腰を抱えていた。


 みちるが息を整えようとしていると、壁に掛けている時計がポーンと高い音を立て、時間を知らせた。みちるが時計をちらりと見て、ハッとする。

「今日、クリーニングの日だわ」

 はるかも時計を見て、ああ、と頷く。いつも時間通りにやってくる海王家のクリーニング担当者は、もう家の前に来ているかもしれない。

「そうか。時間はあると思ってたのに残念だな。」

 はるかはそう言って、持ち上げていたみちるの足をゆっくりと下ろす。みちるがそれに合わせて上半身を起こそうとしたが、はるかはそれをそっとベッドに押し戻すように、自分の身体を重ねた。

「え、はる……」

 驚いて口を開きかけたみちるの口を、はるかの唇が塞いだ。入り込んだ舌が口の中をぬるりと動き、みちるのそれと絡み合う。なし崩し的にみちるはその動きに従ってはるかを受け入れる形となり、腕もまた自然とはるかの首に回された。


 繋がった口の隙間から漏れ出るくちゃくちゃとした水音に混じって、かすかに呼び鈴の音が届いた。音楽で鍛えられたみちるの耳が敏感にその音を捉える。はるかに回した腕を緩め、肩を押して彼女に抵抗の姿勢を見せた。


「来たわよ」

「大丈夫、鍵は渡してあるから、入ってもらえばいい」

「なおさらダメよ……ああっ」

 

 まだ熱く潤いを保ったままのみちるの秘部に、はるかは指をするりとなぞらせた。とろりとした液に包まれたそこは、抵抗なくはるかの指を滑らせる。二度三度指を往復させると、みちるは熱く息を漏らし、はるかを押しのけようとした腕は力なく緩んだ。

「それとも、みちるはこんな中途半端なところでやめたいの?」

 意地悪さの滲む低い声を出しながら、はるかはにやりと笑って指先をつとみちるの中に挿し込んだ。たっぷりと濡れた入り口は、柔らかく熱く、はるかの指に吸着する。

「ここ、こんなに僕の指を咥えてるのに?」

「ん、もう……ずるいわ」

 入り口で浅く動かされる指の動きに、みちるは物欲しげに薄く目を開け、腰をふるりと揺らした。はるかはククッ、と低く声を漏らし、長い指で中に侵入を試みる。


 先ほどはるかに昂められたみちるの中心部は、はるかをきゅっと包み込んだ。一本目の指が入っただけにも関わらず、軽い締め付けではるかを掴んで離そうとしない。やめようという態度を見せながらもみちるの身体が自分を求めていることに、はるかは身体の内側から熱くなるような感覚を覚えていた。

 階下からは特に音は聞こえて来なかったが、きっとクリーニングの担当者は鍵を開けて中に入ってきているだろう。だからと言って早く事を済ませようなどという気は、はるかにはまるでなかったが、ゆっくりと楽しむほどの気持ちの余裕が自分に残されているかというと、それもまた疑問である。


 中の柔らかな壁を押しながら刺激すると、みちるは先ほどよりもだいぶ控えめに声を上げた。他人が家に入ってきたかもしれない緊張感で遠慮しているのかもしれないが、先ほどまでのように一心に乱れ高い声を上げる姿を見たかったはるかとしては、若干不服でもあった。

 が、聞こえるか聞こえないかというスリルの狭間に揺れるみちるの表情も、意外と悪くないかもしれない。堪えるような表情を浮かべて口を抑え、快楽と理性の間を行ったり来たりしているのが、はるかにはよくわかった。思わず笑みが広がってしまうのを抑えられない。

 性急に攻め立ててしまいたいのをどうにか抑えながら、はるかは浅い抜き差しと、時折深く中への刺激を繰り返した。その動きに合わせて、はるかの指を咥える秘部は軽く収縮し、みちるは表情を歪ませる。


 もう一本の指を滑り込ませようとする時に、はるか入り口に隠された芽に軽く触れた。みちるはぴくんと腰を揺らし、高い声を上げる。

「あっ……ん」

 堪えきれなかった声が出たことに、みちる自身が驚き、そしてしまったと言わんばかりに頬を染めた。しかしそうしたところで、発せられた声が戻ってくるわけでもない。はるかはみちるの恥じらいと、若干咎めるように鋭くなった視線には構わず、増やされた指をずるずると中で動かした。


 はるかが何かの気配を感じたのは、その時だった。ちらりとそちらに視線を向けると、ドアが薄く開いていて、何かが横切ったようにさっと動いた気がした。はやく触れ合いたいという気持ちでいっぱいだったから、ろくにドアも閉めていなかったことに、そこで初めて気がついた。

 みちるに視線を戻すと、軽く目を瞑って荒く息をついているだけで、何も気がついていないようだ。相手が敵であれば、悪い気配やオーラに真っ先に気がつくのはみちるなのだが――戦いで鍛えられた感覚のおかげで、物が動く気配であればはるかのほうがが敏感に察知できるようになり、いま外にいる誰かに気がつくことができたのは、ある意味皮肉なことである。


 ドアの向こうは多少気になったが、誰がそこにいるのかははっきりしていたので、はるかは気にせず続けることにした。常識的な人間で、特にこの家に仕える立場の者であれば中に入ってはこないだろうし、自分たちが何をしていようと口を出してくることもないだろう。見られたい、見られてもいい、とまではさすがに思わないが、悪いことをしているつもりもない。


 ――何より、今ここでやめることなど、もうはるかもみちるもできないのだ。


 はるかは再びみちるの中を探った。みちるは先ほどまでと同様、声を抑えるような様子で身を捩ったが、やはり部屋の外に人がいることには気がついていないらしい。堪えるような絞られた声が喉の奥から発せられ、限界が迫りつつあることを物語っていた。


「ここ……いいの?」

 はるかは知り尽くしたみちるの感じる部分を突いたり外したりしながら、あえてみちるに尋ねた。みちるは必死に目を瞑ったまま、こくりこくりと頷く。

「ん……そこ、いいっ……」

 はるかを勢いづけるには十分すぎるほどの、悩ましげな甘い声が発せられ、肩がぎゅっと掴まれた。そろそろその時であることを悟ったはるかは、みちるの耳元で囁く。

「いいよ……」

「はぁっ……ああっ」

 はるかの言葉を合図としたかのように、みちるは小さく悲鳴のような声を上げた。食い込むほどに力強く肩が握られ、無意識下にみちるははるかをぎゅうと自分の元に抱き寄せる。引きずられるようにはるかはみちるの上に重なった。締め付けられた箇所は熱くはるかのことを捉え、重なった肌も溶け出すように熱を発している。


 はるかはみちるの胸元に崩れるように重なってから、顔をドアの方に向けた。隙間からひとつの目がこちらを見つめており、視線がぶつかる。その持ち主はハッと驚くような動きを見せたあと、そのまま動かなかった。


 ――ああ。見てたのか。


 はるかは思わず笑みをこぼした。その瞬間、扉の向こうにいた人物はさっと身を翻し、去っていってしまった。


 なぜ彼女に笑顔を向けたのか、はるかは自分でもよくわからなかった。

 自分だけ彼女の存在に気がついているのにみちるには伝えず、あろうことかまだそこにいるかもしれない状態のまま事を進めた。ある意味非道徳的で物好きとも言えるような行為に、軽い自嘲の気持ちもあったのかもしれない……が。


 ――それはあの娘も同じだから、おあいこだな。


 みちる以外の女の子と何か秘密を共有した事実、そしてその内容をみちる本人に知られたら、二度と口を聞いてもらえなさそうだということに気がついて、今度こそ本当にはるかは自嘲の意味でこっそりと苦笑いを浮かべたのだった。