003. 読書記録「死神の精度」
2022.9.27
今回は伊坂幸太郎さん作「死神の精度」です。これはまさしく前回の読書記録で書いた「読んだ気がするけど内容を覚えていない」という作品です(笑)絶対に読んだことがあり、設定や構成はわかっているのに、パラパラとページを捲ってもひとつひとつのストーリーが思い出せず、仕方なくもう一度買い直して読みました。
本題に入る前にひとつ。私は好きな作家さんを聞かれたら、真っ先に伊坂幸太郎と言うくらいに伊坂さんの作品が好きです。ただその割に、全ての作品を追っているわけでもないし、どこが好きかと言われると答えに困るという、似非ファンです(笑)
ただ、強いて言えば文章が好みなんだと思います。交わらなそうなところで実は後々交わることの多い、唸らせられるストーリーや、空気感も好きです。
文章の好みで言うと、私はどうも回りくどい婉曲表現が苦手で、どれだけ美しい表現であっても回りくどく感じてしまった瞬間に頭に入ってこなくなってしまうので、シンプルな表現が好きです。振り仮名を使わないと読めないような漢字が多く使われるのも、集中が削がれてどうも苦手です。これだけ言うと好みを語っているように見えると思いますが、要は本が好きでも読解力が高いわけではないってことなんでしょう。シンプルで読みやすい、誰にでも読めるような文章を好む。
じゃあ伊坂さんの作品が読解力の低い人向けかと言うと、そういう失礼なことを言いたいわけじゃありません。ただ、読者の頭にスッと入る文章を書けるというのは、ひとつの才能なんだろうなと感じるのです。そうでなければ読んでもらえなくなってしまうので。伊坂さんの本は、いつ読んでもスッと頭に入ってきて、その世界に引き込んでくれる感じがする。だから、自分がどういう文章を好み、書きたいのかわからなくなった時に、伊坂さんの本を開いてその世界に入って確かめることもあります。
まあそんな感じで、伊坂さんの話は例え覚えていなくとも何度読んでも好きだと思えるのでまた買ったわけでした。
さてようやく本題に入りますが、今回の「死神の精度」は、確かいつだったか映画化かドラマ化もされたんでしたっけ。中身はそれぞれが短編ではあるのですが、全体に繋がりがあり、ある死神が自分の担当となる六人の人間の死を見守るストーリーです。案の定、読んでみたらちゃんと読んだことがあるストーリーだと思い出すことができました(笑)
今度こそ忘れないよう、備忘録のために六話分の登場人物を簡単に記載しておきます。
・コールセンターでクレーマーに悩みながら働く地味な女性
・任侠を重んじ、兄弟分を殺された復讐を図るヤクザ
・吹雪のペンションで連続殺人事件に巻き込まれる老婦(他関係者多数)
・向かいのマンションでストーカーに怯える女性に密かに思いを寄せる男性
・自分の母親と通りすがりの若者を刺して逃げている若い男性
・海の見える街で美容師をする七十代の女性
最初の話は、女性を悩ませたクレーマーが実は音楽プロデューサーで、コールセンターで働く女性の声に才能を見出し何度も電話をかけてくるようになったという裏話があり、音楽好きな死神はその女性が死ぬ運命を取りやめとします。(死神にはその権限があります)
最後に出てくる七十代の女性は、四番目のストーカーに怯える女性の数十年後の話です。彼女が若い頃に流行ったCDが、最初の話で出てくる女性がデビュー後に出したものだと死神は知ります。
……と、一見関係ない人間たちの話のように見えて、実は繋がりがあったという仕掛けが施されているのも、伊坂さんの作品によくある話でとても好きです。ここに書いたこと以外にも、小さな繋がりや伏線がいくつか用意されています。
多分細部を覚えていなかった理由は、大きな波も種明かしもなく淡々と六人の人間の死の間際を描くだけのストーリーだから。「だけ」と言うとこれまた失礼かもしれませんが、前回の読書記録に書いた通り、謎を解き明かしていくストーリーが好きでよく読む身としてはそっちの方が印象には残るので、まあ、それに比べれば印象が薄くなってしまうのは仕方ないです。
ただ、死を間際にした人間の生き様を描くストーリーって、伊坂さんの作品らしいというか、伊坂さんの良さが出るテーマだと思うので、例え大きな波風立つようなストーリーじゃなくても、その空気感が好きだと思えます。これ、言葉にして表現するのが難しいんですが、人の感情とか気持ち、無力感、諦めなどをよく描かれる方だと思うんですよね。
今回のように直接的に死をテーマにして書かれるものもあれば、「終末のフール」という、世界の終わりをテーマにした作品もあります。こちらも同じく、テーマの割に激動のストーリーではないんですが、いい意味で人が生きるのを諦めたときの力の抜けた雰囲気が感じられます。(そして「死神の精度」に同じく、空気感や設定は覚えているのにストーリーの細部を覚えていない話の代表でもあります)
こういう、死を間際にしながらもそれを良い意味で諦め、受け入れるという姿勢は、多分私が中学生頃(第一次オタク期)にとある漫画に影響されて憧れ、ずっと引きずっている姿勢のような気がします。(厨二の魂百まで、心はずっと厨二なので……)伊坂さんの作品を好きだと思う理由の一つも、そういう意味で琴線に触れる部分があるからかもしれません(笑)
そう言うわけで、本の感想なのか伊坂作品全体に対する感想なのか、はたまた死生観や厨二病の話なのか、着地点がわからなくなってしまいましたが、久しぶりに好きな作家さんのお話を読んで心をリセットすることができました、という読書記録でした。