016. 読書記録「悪い夏」

2025.1.12

 立て続けに感想文投稿になります。

 今回は「悪い夏」(染井為人)。この方の小説を読むのは初めてでした。一つ前の本が長かったせいもありこちらは短く感じて、休日一日でさくっと読み切りました。

 生活保護制度に関わる人間模様を描いた話です。最初は市職員佐々木の視点から始まり、過去にヘルニアで仕事を続けられなくなり妻子とも離婚した山田や四歳の女の子美空を育てながら生活保護を受給する愛美など、何名かの生活保護受給者視点で話が展開。

 愛美は生活保護に関する市の担当者高野から、支給中に無断でキャバクラで収入を得ていた弱みを握られ、性被害と恐喝に遭っていました。そこに、キャバクラの胴元であるヤクザの金本が目をつけ、高野を脅して取引をすることに。一方で、高野の悪事は市役所内部にもバレており、佐々木やその同僚の宮田という女も高野を告発するために動き出します。

 しかし、その過程で佐々木が愛美に惚れ込み高野は佐々木の勧めで告発されることなく退職。家族にも何者かにより真相が明かされ、すべてを失い姿を消しました。金本は当初の計画が崩れたものの、今度は佐々木を利用し金を得る計画に変更。佐々木はバイアグラだと騙されて合成麻薬を服用し、そのまま覚せい剤中毒の道へ。愛美から裏切られたショックも重なり自暴自棄になり愛美を巻き込んで死のうとします。さらにそこへ、すべてを失った高野が乗り込んで来て暴れだし、一時本件から離れたはずの宮田もやってきて、高野と自分が不倫関係だったことから、高野に復讐するために彼女が家族に真相を明かしたことが発覚。

 最終的に登場人物それぞれが大暴れの末、警察が来て終了。

 最後は、これまで蔑んで対応してきた生活保護受給者に佐々木自身が成り下がってしまった、というエピローグで締めくくられました。

 救いのない話で最後はしっちゃかめっちゃか、読後感はあまりスッキリしなかったです。前半は生活保護についていろいろ考えさせられる話でした。真面目に生きても病気や怪我などでどうしても上手くいかない人にとっては必要な制度だと感じる一方、不正受給も横行し税金が無駄遣いされているかもしれないと言う点は見過ごせない気持ちもあります。

 そして、オブラートに包まず正直に言うと、自分はあちら側に「堕ちたくない」と感じました。もちろん自分もいつ病気や怪我で働けなくなるか分からないという点で、「あちら側」になるおそれは十分にあるし馬鹿にはできないのですが、それでも最後まではそうならない努力はしたいし、仮に生活保護にお世話になることがあっても、生活を立て直すまでの一時的な対策として、つまり生活保護の本来の目的で利用できるようにしたいと感じました。今はそういう人を支えるために税金を払う側なので……。あと間違ってもヤクザに目をつけられるようなことにはなりたくないです。

 とは言え、そうなってしまった人たちの多くもなりたくてなったわけではない、にも関わらず、蔑みの目を向けられる。窓口で追い返されたり、受給停止の圧力をかけられる。そういう暗い現実も含めて「救いがない」と思いました。そして、こういう底辺より自分が上の世界にいるという嫌な感じの思いを抱いてしまったこと自体が、読後感の悪さを生んでいる気がします。(メインのストーリーから外れるのでここには書ききれなかったですが、生活保護を最後の頼みの綱として申請しに行ったけど断られ子供と一緒に心中したシングルマザーや、息子と連絡を取り合い援助を受けているにも関わらず疎遠になったと言って不正受給しつづける老人など、制度のやるせなさを感じる登場人物が何人か出てきます。メインストーリーには直接関係ないので「なんで出てきたんだろう?」と思う一方、生活保護制度に向き合う佐々木の様子を描く大事な要素になっているのかなと思います)

 今回は好きな話かどうかでいうとあまり好きではない話でしたが、前回が壮大なSFだったので気分転換となりました。