022. 読書記録「アリアドネの声」

2025.2.10

 『アリアドネの声』(井上真偽)の読書記録です。

 あらすじ。ドローン関連のベンチャー企業に勤める主人公は、幼い頃に兄を海の事故で亡くした経験を持つ。その兄の口癖「無理だと思ったらそこが限界」を自身に言い聞かせながら暮らしていた。が、たまたま仕事で再会した同級生に、過去にそのせリフを使ったことを挙げられ、ウザがられてしまう。

 そんな中、主人公はあるスマートシティのオープニングセレモニーに企業の一員として参加することになる。そのスマートシティは障害者も健常者も共に暮らせる地下都市で、ドローンも都市で活躍しており、製品紹介のために出展していた。ところが、セレモニーの最中に大地震が発生し、地下は甚大な被害を受けてしまう。幸い、セレモニーは地上開催だったため地下での被災者は少なかったが、地下鉄を利用して移動しようとしていたセレモニーのゲスト(この施設の建設を推進した知事の姪)がひとりで取り残されてしまった。彼女は「見えない、聞こえない、話せない」の三重苦を抱え令和のヘレン・ケラーと言われており、さらには直接人が入れない場所に取り残されてしまったため、救助は困難を極める。そこで白羽の矢が立ったのがドローンでの誘導救助だった。主人公は操縦技術に優れていたため救助の前線に立ち、彼女を誘導する役目を担った。

 一方で、先述の同級生もセレモニーに参加していた。彼女の妹も失語症という障害を抱えており、地震発生後に地上から地下に光を取り込むための天窓から誤って地下に落ちてしまったため、同級生は主人公に妹の救助を求め、ドローンの貸出を要請していた。だが、ドローンや人員の不足ですぐには助けに回れず、そちらは後回しになってしまう。

 救助を進める中、いくつかのトラブルが発生する。三重苦の障害を抱える要救助者にとっては大きなピンチのはずだったが、彼女はまるで「見えて、聞こえて、話せる」かのようにトラブルを回避した。救助チームに、彼女が実は障害が軽い、あるいは多少回復しているが、知事や自身の売名のために障害を重く見せているのでは? という疑念が生じ始めた。また、リアルタイムでネットにも情報が拡散され、彼女が知事の姪だから優先して救助されているのでは、という疑念も挙がっていた。

 しかし、主人公は要救助者を信じ、見事与えられた使命を全うする。そして無事救助された彼女は――件の同級生の妹を背負っていた。つまり、地上から落ちて怪我をして歩けなかった同級生の妹を三重苦の女性が背負って連れていき、背負われた彼女は背負った女性の目となり耳となって、協力し合って生還したのだ。


 残り数ページでどういう結末になるのだろう?と読んで、ラスト一ページで真相が明かされ、見事に「なるほど〜!」となるお話でした。

 登場人物が限られており、「下から救助される人」「上から下に落ちた人」がいるので、人によっては二人の合流と結末を予想できそうに思いますが(まあ私は全然予想できてなかったのですが)、そこまでで三重苦の女性に対し「実は障害が軽いのでは?」などと積み上がっていた疑念が、最後の最後で綺麗に払われた分、爽快感があり読後感が良かったです。

 何よりこの爽快感の中には、

・地下で出会った二人がお互いの怪我や障害を補う形で生還したこと

・三重苦の女性が、自らが背負って運んだ同級生の妹を心から心配していたこと(救助されたあとに「あの子は無事か」と心配していた)など、自分以外の人間を助けたいという健気な気持ちが感じられたこと

・有名人であり知事の姪である女性が優先して救助された状況で「命に重さはあるのか」を考えさせられてしまったところで、要救助者本人がそれを否定するかのごとく他の人を救って生還した

などの要素があったため、なおのこと良い読後感になったのだと思います。

 地下に作られるスマートシティという設定も、現実にありそうでなかなか面白いなと思いました。(ですが、話の中でも災害に遭って大変なことになっていたので、きっと実現しようと思ったらたくさんの課題があるのだろうと思いますが)

 ここまで書いておきながらアレですが、実は最後の最後、種明かしの瞬間までは「まあ普通に面白いかな」程度の評価でした。結末も、そこまで意外性はない気もします(予想出来てなかったくせに何を言う? って話ですが)にも関わらず、先ほど書いた爽快感のお陰でお話の評価がかなり上がった感じです。

 こういう感覚のお話は初めてだったので、なんだか不思議な気持ちになりました。