First.
「んっ……ん、あっ……はるか……ねえ、はるか?」
しばらくしてから僕を現実に戻したのはみちるの呼びかけだった。喘ぎながら自然と僕の名を口にしたのではない。僕の意識を引くために意図して発せられている。
あれ? と僕が顔を上げると、みちるも軽く頭を持ち上げてこちらを見ていた。やや申し訳なさそうに眉を下げている。
「ごめんなさい…………あの、でもちょっと、そこは……違うみたいなの」
「違う?」
僕がおうむ返しで問うと、みちるはこくりと頷いた。
「なんか、擽ったいというか……嫌ではないけど、ちょっと……」
言いづらいというだけでなく、単純に良い表現が見つからない様子でみちるは言う。
どうにも、僕は彼女に快感を与えられないばかりか違和感だけを与え続けていたらしい。
「そっか、ごめん……」
僕は慌ててそう言うしかできなかった。熱く滾るようだった気持ちが急速に冷めていくのを感じる。自分ばかりが夢中でみちるを感じていたのに、肝心のみちるに良い思いをさせてあげられなかったことが、とても情けなく感じた。
僕がよほど意気消沈した様子に見えたのだろう。みちるは身体を起こし、僕の頬に触れた。
「そんな顔しないで。初めてなんだし……わたし、はるかと触れ合えて幸せよ」
みちるは吸い込まれるように僕の腕に抱きこまれた。確かにみちるの言う通りだ。彼女は僕に全てを明かしてくれ、秘めたる場所に触れさせ、僕に心ゆくまでそれを食べさせてくれた。この上なく幸せだ──少なくとも、僕が一方的に。例えみちるが触れ合えただけで幸せだと思ってくれていたとしても、ここまでの行為は僕のひとりよがりにしか感じられなかった。
もやもやとした気持ちを抱えていたら、みちるがそっと耳許で囁いた。
「ねえ。はるかは、させてくれないの?」
「……え?」
僕が驚いてみちるの顔を見ると、彼女はいたずらっ子のように意味ありげな視線で微笑んだ。そして僕の答えを聞く前に、その手ははだけた胸元に伸びる。
「……っ、あ、みちる」
みちるのものよりはだいぶ引き締まっている、僕の膨らみをそっと撫でた。温かい手で包まれ、僕の身体に震えが走る。
戸惑っていると、あれよあれよという間に僕はみちるに唇を押し付けられ、ベッドに戻されていた。
さっき僕がやったのと同じ流れで、みちるは僕に深く口付け、舌で口内を撫でるよう探られる。僕は呆然としてそれを受け入れていた。
そうだ。何を勘違いしていたのだろう。普段の振る舞いやみちるに触れたい感情から、僕がリードして当然だと思っていたけれど、みちるが僕に触れたいと思えば、当然このような形もあるのだと──予想していなかった逆転に、僕は動揺しながらも、あっさりと波に飲まれていた。
「はるか、すごく綺麗」
みちるはそう言って、僕の胸の先端に舌を滑らせた。僕は不本意ながら、驚いて身体をびくりと震わせてしまう。
「うっ、あっ……」
みちるが言っていた感覚が、少しだがわかった。身体の奥にむずむずとした感覚が走り、ドキドキする。擽ったさもあるし、好きな感覚と言えるかは微妙なところだが、みちるが僕に精一杯尽くしてくれるのを感じられて悪い気はしない。
みちるは僕がしたのと同じように、僕の胸元をたっぷりと愛撫した。一度冷めてきた身体が、再び燃えるように熱くなっていく。
ちゅっ、とリップ音を立てて僕の胸の先端から唇を離したみちるは、ゆっくりとなめらかな手つきで下腹部に手を触れた。そう言えば上半身は早々に脱いだが、パンツと下着はまだ身につけたままだった。みちるに触れたい一心で忘れていたというのもある。みちるはベルト部分に手をかけてから僕に尋ねるような視線を送ってきたが、言葉にはしなかった。嫌だと言えばやめてくれるだろうが、彼女が僕に全てを曝け出したのだから、僕が同じようにするのは当然だろうと、暗に思っているようにも見える。
僕の顔つきを見て、先に進むことを決意したのだろう。みちるはかちゃかちゃとベルトの金具を取って、ゆっくりとパンツを下ろした。そして下着の上から僕の中心部に触れる。
「すごく、熱いわ」
そう言われた瞬間、僕の頬がカッと熱くなった。それは僕自身の恥ずかしさと言うより、みちるに何かいけないことをさせているような感覚になってしまったからだった。清楚なお嬢様の顔をしていたみちるが、妖艶さを滲ませながら僕の秘密の場所を覗こうとしている。そのことに、僕は無性に興奮して胸を高鳴らせてしまったのだ。
みちるは恭しく僕の下着を取った。その様子から僕は目が離せなかった。細い指が僕の中心部を撫でる。みちるが触る様子から、そこが多少なりとも湿り気を帯びていることがわかった。それからみちるは僕と同様にそこに顔を近づけて──。
「あっ……みちる、それは…………んっ」
予想はできていたことだったのに、みちるの動きに見惚れていたせいで、僕は彼女の為すがままになってしまう。温かくなめらかな動きで、みちるは僕の中心に舌を滑らせた。まるで舌それ自体が意志を持つ生き物であるかのように、僕の上をぬるぬると動き、魅了する。先ほど胸の上で味わった感触とはまったく別のものに感じた。
「うっ……ああ……みちる……」
身体が燃えるように熱かった。気持ちとしては、どちらかと言うと自分が施しを受けるよりも自分がする方が興奮を覚えたように思ったが、それでもみちるが頬を染め、時折ぴちゃぴちゃと水音を立てながら自分に奉仕する姿は、何とも言えない気持ちを沸き立たせるものだ。
気づけば僕は顔を歪めてベッドシーツを握り締め、息を荒くしながらみちるを受け止めていた。
みちるの動きは丁寧で僕を焦らせるものではないけれど、どんどん心臓の鼓動は高まり、得も言われぬ感覚が迫ってくる。
ああ、この感覚は一体なんなのだろう。頭がくらくらしてきた。おかしい。そう思って僕はみちるを止めようとした。
「んっ、あっ……‼︎ ちょっと待って、みちる!」
僕がみちるに向けてそう叫んだ途端、僕の中で何かが弾けた。頭が白くなり、身体が勝手に震える。つま先までピンと力が入った。制御できない強い力が、下半身に加わったようだった。頭がぼーっとして一瞬何も考えられず、数秒遅れてから自分が歯を食いしばり息を止めていたことに気づく。慌てて呼吸をしたが、息がかなり上がっていた。
さらに少し遅れてから、僕はそれがいわゆる絶頂であったことに気づく。呆然として荒い呼吸をしながら、僕は天井を見つめていた。僕の足はまだ不規則な細かい震えを伴っていて、みちるは何事もないようにそれを支えている。
やがて僕の息が整ってきたので、ゆっくりと身体を起こした。みちるは艶やかに濡れた唇のまま、僕に問う。
「気持ちよかった?」
なんでもないようにそう聞くから、僕は一瞬さっきの出来事が夢だったのではないかと思ったほどだった。無我夢中で身を任せるうちに波が押し寄せ、そして引いていったから、気持ちよかったかと言われるとよくわからない。ただ、みちるに触れられている間幸せな気持ちを抱き興奮していたのは間違いないから、僕はゆるゆると首を縦に動かした。
「みちる、もしかして……経験、あるのか?」
僕はまだ呆然としたまま、みちるにそう尋ねた。僕ばかりが初めてだと思っていたが、もしかしてみちるはすでに誰かとの交渉経験があるのではないか──そう思ったのだ。みちるは目を丸くして首を大きく振る。
「ちっ、違っ……! そうじゃなくてっ」
そしてみちるは、裸のまま膝を抱えて顔を伏せ、おずおずと視線だけをこちらに向ける。
「さっきはるかに触ってもらって……ちょっと、わかったというか…………」
みちるは膝に顔を伏せるようにしたまま目だけを覗かせ、小声で囁くように言った。僕に施す間一度引いていた頬の赤みは再び戻っているようで、恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「それは……えっと。きみがして欲しいところを、教えてくれた……ってこと?」
みちるはこくんと頷く。
「じゃあ」
僕は嬉しくなって、伏せているみちるの頭にくしゃっと手を置いた。
「試してみなくちゃ」