007. 映画鑑賞記録「沈黙のパレード」

2022.10.26

 以前こちらで書いたように、映画公開をきっかけに「沈黙のパレード」を読み、この度映画も見てきました。

 映画の感想を書くつもりはなかったんですが、予想していたのと違う感想を抱いて帰ってきたので、せっかくだから書こうと思います。あらすじは読書記録の方に書いてあるのでこちらには書きませんが、ネタバレがあるのでご注意を。


 読書記録にも書きましたが、この話は登場人物が暗に過去作「容疑者Xの献身」の事件を意識しており「同じ過ちを繰り返したくない」と振り返るシーンもあります。それゆえに私も自然と「容疑者X」と比較しながら本を読み、映画を観ました。

 「容疑者X」は、ほぼ原作を損なうことなく、ストーリーはもちろん感情表現を含めて原作そのまま、いや、それ以上のように感じた記憶があります。もちろん、もうずいぶん前の記憶なので多少あやふやな部分はあるかもしれませんが、ガリレオシリーズの中でもかなり印象に残り、知人と感想を話した記憶もあるので、それなりに正しい印象ではないかと思います。

 それに比べると映画「沈黙のパレード」は、かなりストーリーを省略したものに感じました。いや、話のボリューム感からすれば当然のことです。ただ、現場を翻弄するためのトリックを一つ省略したり、重要な関係のある過去の事件やその親族の話がほぼ削られていたりして、大胆な改変に思えました。

 たくさんの関係者がいる中、それぞれの感情をどう描くのだろうと思ったのですが、そこは演技や演出で、過去のシーンを交えながら現在の悔しさに満ちた感情を巧みに映すことで、それぞれが被害者やその遺族に抱いていた気持ち、犯人に対する憎しみを如実に描いていたように思います。さすが俳優さんだなと思いながら見ていました。


 意外だと思ったのは、原作では、湯川教授が「容疑者X」での後悔を繰り返したくないことを強調し、それが最大のテーマにも思えたストーリーが、映画では、草薙刑事が映画の中の過去の事件に抱く思いにだいぶ寄っているように見えたことでした(冒頭で書いた「予想と違った」のはこの点でした)。

 原作(文庫本)の表表紙を捲った一ページ目の所にも「容疑者Xはひとりじゃない」と書かれ「容疑者X」へのこだわりが強調されています。しかもこれは、映画向けに作られた特別カバーの裏に書かれたフレーズなので、映画を意識したもの。だから私は、映画の中でもあからさまに「容疑者X」を振り返るのではと思っていました。

 しかし映画での湯川教授は確かに「容疑者X」を意識した発言もするのですが、深く後悔するというほどの演出は見えなかった。一方で草薙刑事は、容疑者Xの事件ではなく、映画の中で被疑者が関わった過去の事件への悔恨が強い。映画冒頭で被疑者の名前を聞いて嘔吐するほどです。

 そして全体的に湯川教授よりも草薙刑事の悔しげな表情や葛藤のシーンが明らかに多く、湯川の感情より草薙に寄せたいように感じられました(湯川は草薙に比べて感情をあまり表に出すタイプではない、というそもそもの違いはあれど……)。

 明らかに「容疑者X」を強調しすぎると、初めて見る人には伝わらないと思うので、映画としてはこのくらいが正解なのかもしれません。ただ、その割に原作や映画の宣伝の中では「容疑者X」が随分強調されていたので(大ヒット作だったせいもあるかもしれませんが)、見終わった印象が「意外」になってしまったのです。

 

 とは言え、映画が面白くなかったかと言うとそういうわけではなく、本とは違う意味で引き込まれ、二時間超でしたがあっという間でした。本を読んでしまうことで先入観が生まれるので今回は読まない方が良かったかな、と映画の冒頭で思ったのですが、結果的に本とは違う印象を抱いて帰って来たため、二重で楽しめたと言えるかもしれません。

 映画ではかなり細部を端折っていたので、関係者の多さや事件の複雑さから、初見の人にちゃんと伝わるのか? という懸念もありましたが、一緒に観に行った家族はそれなりに楽しんでいたようでした。


 そうそう、今回は湯川教授、数式を衝動的にその辺に書き始める演出もしませんでしたね(笑)どちらかと言えば心理戦で、科学的な小難しいトリックがあれこれ使われる感じでもなかったですしね。あの演出は嫌いではないですが、わざとらしいとは思うのでない方がリアリティが出ますね(笑)

 あと、散々「容疑者Xはあまり強調されていなかった」と書きましたが、エンドロールには「容疑者X」を含めた過去のシリーズのシーンがいろいろ出てきてました。それを振り返ると、ああ、草薙も湯川もそれぞれの過去の辛い思いが少し報われたのかもしれないなと思いました(メインの御三方とも、過去の映像ではお若く見えて、結構時間経ったんだなぁ……十五年だもんなぁ、というしみじみした気持ちも持ちつつ)。


 私は映画をよく観るほうでもなく、ましてや本にしろ映画にしろ評論家でもなんでもないですから、ただ感想を並べ立てているだけに過ぎないですが、時間をかけて本と映画それぞれを見比べて楽しむ機会ができたのは良かったです。

 そして自分ではこちらにきちんと記録するようにして良かったなとメリットを感じつつあるので、今後もできれば続けたいと思っています。